企業概況ニュース掲載 「人事・備忘録」 第二回 『Salary History Bans : 給与履歴照会制限法にまつわる話』

今号は、Salary History Bansおよびそれに関連する法律を取り上げます。

Salary History Bansは読んで字の如く「給与履歴を問うことを禁止」する法律であり、日本語意訳すれば「給与履歴照会制限法」となりますが、この法律について周囲から「実際の法律名は?」と聞かれることが多く、都度、「州や地方自治体が独自に定めたルールであり、従って法律名は各々の自治体で異なる」と伝えています。2016年にマサチューセッツ州で施行されて以来、米国中に急速に広がり、現在凡そ20の州および21の自治体で一般企業に対して同法を適用していますが、その動きが更に今後も広がっていくことは論を俟ちません*。

Salary History Bansの内容はいたってシンプルで、会社側がジョブオファーする際または雇用する前提条件として、求職者に対し、現在の給与額または給与履歴の提出を要求するか提出を義務付けること、を禁じるものです。

これを更に砕いて言うなら、募集時、求職者に対して、現在および過去の給与額は問うべからず、且つ、知り得た給与情報を基に採用・不採用の決定をするべからず、となります。では、このSalary History Bansが、なぜ全国に急速に広まってきているのかですが、これは、リーマンショックの余波がまだ続いていたことと相俟って、以前の仕事で収入が少なかった求職者は収入を多く得ていた求職者よりも低い給与額や少ない福利厚生を受け入れる可能性が高く、仮に企業側が求職者の給与履歴情報を入手した場合、自ずと低い給与額を提示するであろうことから、低所得だった求職者は以後も低賃金状態を解消できない状態が続くだろう為です。従って、給与履歴を問うことを禁止する目的は、労働者の格差を少なくし、労働者が転職したときに低賃金の永続化を終結させることにあります。

加えて、労働者の低賃金の永続性を絶ち切り、とりわけ男女間の給与格差の解消に努める行為は、平等賃金法、即ち1963年に生まれたThe Equal Pay Actを補強する目的にも通じます。同法は、先の幾つかの戦争に男性が駆り出され、空いてしまったジョブポジションを埋めるべく職場に女性が進出してきて以来、男女の給与格差をなくす目的から生まれましたが、この給与格差が現在でもなお依然として解消されていないことは雇用機会均等委員会などの諸機関が常に喚起しており、平等賃金法絡みの訴訟については他の差別訴訟と同じくらい日系企業は注意を払うべきでしょう。

ちなみにカリフォルニア州は、連邦法のThe Equal Pay Actに似た独自のFair Pay Actという法律を持ちますが、これまで同法は「同じ職務内容・同じスキルにて・同じ責任があるポジションの従業員間の賃金の不均等についてのみクレームを行う事が可能であった」のを、「同様(同類)の雇用条件の下、同様(同類)の職務内容であれば、給与格差についてのクレームができる」ように2016年に改定しました。更に、従業員(たち)からのクレームに対して雇用主は、年功序列システム・メトリックシステム等きちんと構築された給与制度の下で給与調整を行っており、性別によって給与調整を行っていないことを証明することが必要となりました。このような動きは何もカリフォルニア州だけに限らず全国的なものと捉えるべきであり、これまでの昇給方法が曖昧だった企業は、早期に給与制度を構築する必要に迫られています。

*注 各州各自治体が、給与履歴を問うことを禁止する法制化の動きにある中、ウィスコンシン州とミシガン州は、州政府が一般企業の採用プロセスに干渉すべきではないとし、州内自治体が給与履歴照会制限法を独自に採択することを禁止する法律を敢えて制定するなど、反対のアプローチを取っています。

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