企業概況ニュース 掲載 「人事・備忘録」 第六回 『ワクチン接種しない理由を問うことのリスク』

ただいま全米中の企業から「ワクチンを接種しない従業員に対して理由を質して良いか」との問い合わせが多く寄せられてきており、しかしながら、この「なぜ接種しないのか?」との質問をすることは実はかなりのリスクを生む事になる旨を、前回2月号の「人事・備忘録」でお伝えしました。

誤解しないで頂きたいのは、従業員や求職者に向かって「なぜ接種しないのか?」と尋ねる行為はリスクを帯びるものの、一方で「ワクチン接種済みですか?」と尋ねることになんら問題はなく、且つ出社してくる従業員の感染の有無を調べるために例えば毎朝出社時にスクリーニングテストを実施することもできます。

それはEEOC(雇用機会均等委員会)が、「COVID-19を伝染性の高い『直接の脅威(direct threat)』とみなし、雇用主は従業員の健康と職場保全に責任があるとの見解の下、ADA(米国障がい者法)の手順を守っている限りテストを行うのは可能」と言明していることも後押ししていますし、実際にニューヨーク市では「雇用主はワクチン未接種の従業員を職場に出社することを認めてはならない」との議会法案を昨年12月27日に可決していることからも窺えます。

但し、「ワクチン接種済みですか?」とは尋ねることが出来ても、従業員に接種記録(証明カードやワクチンパスポート等)を提示させる行為となると話は変わってきます。即ち、接種記録を求めることは、医療情報を求めるに等しく守秘対象になるためです。従って、例えば面接を受けに来社した求職者に対する場合などは、ワクチン接種の有無だけ尋ねるに留め、いざ採用することになれば雇用初日に至ってようやく接種記録を求めるなどの手順が認められることになります。

ここで「手順」と書きましたが、要は企業は、ワクチン接種の有無、自社で(簡易)検査を実施するか否か、検査を拒否する者が現れた場合や検査で陽性だった従業員が現れた場合の対処法、陰性結果になるも症状がみられる従業員への対処法、加えて、自宅でテストキットを使った検査で陽性だと報告して来た従業員への対処法、そのテストキット商品自体の信頼性あるいは推奨できるキットの紹介、などCOVID-19に関わる全てを盛り込んだ「企業方針」を設けておく必要があるということです。

一方で、リモートワークを続けたがる従業員を出社させるわけですから、パンデミック初期と変わらぬ依然とした厳しい衛生管理が企業側に求められますが、こちらも「衛生管理方針」を設け且つその通りに実施し、衛生管理が万全ゆえ出社しても大丈夫なことを従業員に知らしめる必要もあります。

上記のことを踏まえて冒頭の「なぜ接種しないのか?」の質問がどうしてリスクを生むことになるかについて答えますと、COVID-19は「直接の脅威」ではあるものの、但し感染してしまった者たちは、他の病気に罹ったり怪我を負った者と同様にADAの下で保護される立場にあり、翻って、接種を拒否する者はそれぞれ宗教上や身体的理由を持ち、それらは同じく保護されるべき従業員や求職者たちの権利であることから、接種を強要したり接種しない理由を問うことはそれに反することになるためです。

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