ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第37回 『米国世情と日系企業人事の隔たり(8)』

前回=5月25日号掲載=のコラムでは、自社にて公平で一貫性ある給与制度を確立し、その制度を従業員たちに等しく適用し続けていけばThe Equal Pay Act違反を免れられるであろうこと。また制度確立に付随してルールを書面化しておくことつまりは当該制度が決してその場しのぎではないことの証を立てるべきだと説きました。

給与決定システムを構築するに当たり、前回の記事で例として取り上げたのが一部で旧弊の如く扱われる「(いわゆる)年功序列」システム。しかしながら法的リスクの回避を考えるなら差別行為の入る余地なく機能する立派システムだといえます。

但し同システムは総じて給与の「一律引き上げ」行為でしかなく、各々の従業員の職務遂行能力あるいは実績や結果を反映させていないため能力ある優秀な従業員たちが居残って働き続けてくれるか大いに疑わしい、況してや大抵の会社が能力主義を採用する米国…とりわけ物価も給与額も高い値で推移している昨今…にてその体制を維持できるかが不安なところです。

では給与額決定に各従業員の職務遂行実績を反映させるか加味したいなら、給与制度構築以前にそれらを正当に測り得る人事考課システムが必要になり、その人事考課システムを構築するなら職務内容や責任範囲を正確且つ詳細に綴ったジョブディスクリプションが必要になるというわけです。

如何なる基準に則って考課するのかの「基」がなければ考課しようがないですし、ジョブディスクリプションなくして考課を行えばそれこそが上司をして個人的意思が働くThe Equal Pay Act違反の元凶ともされてしまうためジョブディスクリプションもまた予めの書面化が必須になります。

ところで話は変わり、ここ最近の米国労働統計局の雇用報告をみるに4月の求人数は過去6カ月の傾向に同じく減っており、オンライン求人広告数の減少傾向とも相まって雇用市場が冷え込んできた証左だと人事業界では捉えていたのが5月は逆に予想をはるかに上回る27万強の新規雇用があった由。他方でその5月は新規雇用が増大したにもかかわらず同月最終週には新たに23万人弱が失業保険を申請して失業率が4%にまで上がったようでまだまだ先読みできない事態となっています。

今夏今秋そして今冬が如何なる状況になってしまうかはわからないものの求人数と離職率を調査するJOLT報告書が出す結果から言える事実は、ここ数年に亘って過去最高数だった離職者数が着実に減少し、ここ半年ほどの離職率と雇用率はほぼ横ばいとなっていること。そして「このパターンが続けば依然として逼迫している米国労働市場は需要と離職率が安定して均衡に向かうであろうこと。つまりは長らくこのコラムのサブタイトルであった「人手不足」の冠を外す時が近づいてきたといえることです。

ニューヨーク Biz! ページ