ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第44回 『昇給圧力(2)』
このコラムをご覧の皆さま、遅れ馳せながら本年もどうか宜しくお願い致します。皆さまにおかれましては人事・雇用問題に関して大過なき1年となりますよう謹んでお祈り申し上げます。
本筋に入りますが前回=12月21日号掲載=の記事では「公正労働基準法の Salary Testおよび諸州のMinimum wageの独自引き上げが昇給圧力の二大要因の一つ」と説きました。そして今回は昇給圧力のもう一つの大要因と考えるPay Transparency Actについての序説を述べたいと思います。
米国の現在の景気と今後の動向に絡んで、米労働統計局が1月15日に発表したところによれば、昨年12月の消費者物価指数は9月・10月・11月の3カ月間より高く前年比2.9%(季節調整前)であり、尚且つこれら4カ月は連続で前年比(2023年)を上回ったようです。勿論この数値は2021~22年のインフレ急騰時から比べれば低くはあるものの依然として労働者に大きな影響を与えており、1000人超の国内労働者を対象にした昨年末実施の満足度調査によれば43%が「インフレが個人の財務状況に極度に或いは重大な影響を及ぼしている」と回答(前者が18%・後者が25%)。逆に個人の財務状況に影響なしは僅か5%だったとのこと。つまり仮にこの年末年始中に昇給があったとしても労働者の大半が物価高騰に追い付けるほど給金を得ていない状況下にあるということです。
ところで物価が上がれば係るビジネス経費も高くなるは必定。米国税庁は今年の標準マイレージレートを3セント引き上げて1マイルあたり70セントと発表。これは多くの企業が採用している業務遂行に際して私有車を用いた場合に走行距離分を経費名目で従業員に払い戻す方法の一つなのですが、かつては数年に一度の間隔で上がっていた同レートがここ数年は毎年上がっており、加えて国内出張に限ってみても従業員に支払う食費や宿泊代など日当の方も右肩上がりに跳ね上がっています。
求人数の方は12月の新規雇用数が25万6000件にも達し6カ月ぶりの高水準だったことから同月の失業率は4.1%にまで落ちました。それに仕事を辞める人が減ったことも相まって退職者数はパンデミック時のピーク以来最低にまで下がった由。先月(昨年末)がこのような数値だったことから2025年の雇用(数)については今のところ楽観的にみられています。
そんなビジネス経費が跳ね上がり且つ雇用が楽観視される中、件のPay Transparency Act施行済み州および施行し始める州では企業が出す求人募集要項に記載される給与額次第で応募数の多寡がはっきりします。オファーする給与額如何で企業の採用が極端に左右されることから、これまで低めの給料・低めの経費で賄ってきた企業にとって同法がかなりの昇給圧力になるどころかいよいよ人手不足に陥ることを覚悟しなければならなくなるでしょう。