ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第12回 『在宅勤務で生じる余計な出費は経費として認められるか(3)』
例えば職務遂行のための机や椅子は「ビジネス上の理由」から必要なものではあるものの、仕事以外の目的…たとえば生活する上でまたは趣味のため…でも使われるものといえ、そこに「合理的な観点」を働かせた場合、会社側が全額負担する必要がない(或いは部分負担さえしなくても良い)アイテムといえます。また携帯電話料金やWi─Fi代は、職務遂行において不可欠ゆえ「ビジネス上の理由」から払ってあげるべきではあるものの私用でも使われる故に、就労時間8時間分は即ち1日の3分の1に相当するため、「合理的な観点」から基本料金の30~50%を払い戻すと定めても良いわけです。
あと電気代は日中も家にいることで出勤していた時よりも確かに上がりはしますが、さすがにここに及んでまで負担してあげるならば、在宅勤務は旨味があり過ぎ、週に数回の出社でさえあれこれ理由をつけて出て来ない従業員も現れる筈。そうなれば企業の営業活動に支障さえ来しかねず、ならば通勤の負担分を何らかの形で補填してまでも出社を促す方向に考えを転じる企業も出てくるでしょうし、或いは正反対に電気代を払ってあげてでも雇用確保に努めたいと思う企業も出てくるなど、企業の現状によって対応が左右に大きく振れることになるでしょう。
ではプリンターはどうか? 前々回=2月26日号掲載=の記事で「私有車・携帯電話・PC及び周辺機器は既にコロナ禍以前よりそれらの大半が経費支払い対象にされている」と書きましたが、書類を印刷することが頻繁ならばもちろん従業員に購入させるか会社が貸与するべきです。但し最近はデータベースを共有化することにおいてオンライン上でセキュリティーを強化するべく、クラウド上で書類作成など全てを行わせ、クラウドシステムで作成された書類や文書などをダウンロード出来ないように設定しているところや、USBさえ使用不可に設定している企業も増えてきています。このようにセキュリティー強化の観点に立てば、プリンターを購入させてまで仕事目的でプリントアウトするべき類のものがあるのかないのか、こちらは今一度考察するべきでしょう。
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ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第11回 『在宅勤務で生じる余計な出費は経費として認められるか(2)』
今回は前回=2月26日号掲載=の記事の続きとして、在宅勤務で生じた出費は経費として認められるかについて解説します。
頓にパンデミック後に巷で多くみられる光景として「普段出勤する時間に家にいることで余計に電気代がかかる。電気代は経費扱いにすべきだ」とか「やっとさえ狭い屋内に仕事スペースを設けるのは難しい。少しでも快適に職務を行う上で機能的でこじんまりした机と疲れにくい椅子を買いたいので、その分を経費として認めて下さい」などと従業員側が会社に対して言ってきたならば、会社は内心「何を言ってる!? 逆に食費やガソリン代の出費が抑えられているではないか!」と返したくなるのは人間心理としては道理でしょうし、皆さんが会社側の立場でもそう思うでしょう。
先ずは経費支払い是非の答えに触れますが、前回記事でも触れましたように「雇用主は従業員の業務遂行上必要な経費の負担を行うべき」と経費支払いについての基準を法制化済みの州が幾つも存在し、またそのようなトレンドゆえ、会社が、在宅勤務を行う従業員の一切の経費の負担に応じないというのはナンセンスだと言えることです。
従って、仕事を行う上で発生した経費を負担することは必須と言えますが、但しそこから踏み込んで経費対象とする線引きをどこに置くかは企業側の判断が問われる場面です。即ち、余りに厳しく経費対象の選別をしてしまうと、今度は在宅勤務を継続できると喜んでいる従業員のやる気に水を差す事になってしまいますし、そこから更に失望されて職探しを始められてしまう事にもなり兼ねない。よって、そこは法や横並びで判断するよりも会社側の情状なり従業員を繋ぎとめる保留策によるところの判断に期待したいところです。
ところで前回の記事の結びで私は「職務遂行に必要な机や椅子などのビジネス家具類」…単に家具類とは書かず…敢えて「ビジネス家具類」としました。繰り返しになりますが、幾つかの州では「雇用主は業務遂行上必要な経費の負担を行うべき」とし、更に諸州では「雇用主は合理的な観点で従業員の経費を管理するよう取り決めた方針を設けるべき」だとお知らせしましたが、ポイントは「負担を行うべき」や「合理的な観点」の部分です。これらは経費として認めるべき判断基準を明瞭に定めていないということであり、会社側の事情や判断によって細部がまちまちな解釈が可能であることを表していますが、少なくとも「ビジネス家具類」と定めるだけで、他の生活用家具とは一線を引くことができますし、またたとえビジネス家具類である机や椅子であっても、仕事以外の目的で使用できるものであれば、必ずしも会社側が全額負担する必要もありません。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第10回 『在宅勤務で生じる余計な出費は経費として認められるか(1)』
前回=1月29日号掲載=では、従業員が今より生活費の安い地域に移ることを理由に際して給与を減額するならば、高い地域に移る際に増額しなければならないこと、また、遠方に引っ越すことで遂行できない任務が生まれその職務内容の変化を理由に減給するならば、会社近くに留まり会社でしか出来ない職務がある時のみ出社してくる従業員に対しては、それが理由の減給措置は賃金同一法に抵触する可能性があることをお伝えしました。要は給与額の多寡は「正当なビジネス上の理由」を掲げる会社側にその決定権があるものの、その「ビジネス上の理由」でさえ一貫性に欠けるところとなれば、大義名分たりえず深刻な問題に発展してもおかしくないということです。
今回は少し話題を変え、では遠方にしろ通勤可能圏にしろ、リモートワークを行う従業員たちが会社以外の場所で働く場合に発生する業務遂行に伴う金銭面での支出について触れたいと思います。
皆さんは、リモートワークを行う上で、例えば電話やWi─Fiなどの通信料金、PCなどの電子機器・照明・暖房などにかかる電気代、仕事机・椅子・キャビネットなどのビジネス家具代、これら家で仕事をする上で生じる余計な出費の大半は経費扱いになると思いますか? 申告すれば会社は認めてくれるでしょうか?
これに答えますと、カリフォルニア州は「雇用主は従業員の業務遂行上必要な経費の負担を行うべき」と明確に打ち出し既に法制化済みであり、イリノイ州、モンタナ州、ニューハンプシャー州、ノースダコタ州、サウスダコタ州など諸州にも同様の償還法が存在します。加えて、イリノイ州をはじめとする一部の州では、雇用主に対して、合理的な観点で従業員の経費を管理するよう取り決めた方針を設け、その方針を広く従業員に知らしめるよう文書化することまで勧めています。
従業員を自宅勤務にさせることで、会社はどこまでの費用を負担するべきか?は引き続き在米日系企業が悩んでいる点の一つですが、但しコロナ禍以前より既に私有車・携帯電話・PC及び周辺機器はそれら大半が経費支払い対象として必須扱いにされて今日に至ります。では普段出勤する時間に家にいることで余計にかかる電気代および職務遂行に必要な机や椅子などのビジネス家具類はどうでしょうか?
次回に続きます。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第9回 『減額措置は賃金同一法に抵触しないように注意を払うべき』
前回=12月18日号掲載=では、遠方に移る従業員への待遇および大手企業は如何なる方針を導入したかについて触れ、それら従業員を減給するならばThe Equal Pay Act(以下「賃金同一法」)に抵触しないことが肝要だとお伝えしました。
復唱しておきたいのは、そもそも在宅勤務あるいは遠方での勤務など所謂リモートワークを認めるかどうかの決定権はあくまでも企業側にあるという事です。ワクチン接種を原則義務化し全日出勤再開の方向に動いている企業もあれば、今のまま在宅勤務とのハイブリッド方式を続ける企業もありますが、大手優良企業と言われるところは全日出勤再開に向けて強気の姿勢をとり、一方の中小企業は、他社以上の報酬を支払うならいざ知らず、現在大きな問題となっている人手不足の実情と相俟って現実に妥協しつつ従業員達に失望されないよう薄氷を踏むが如く方針を打ち出していかねばらないと考えます。
本題に入りますが、企業側が、在宅勤務あるいは遠方で勤務したいと申し出てくる従業員の給与を通勤時代の給与額から減額したいと考えるならば、賃金同一法に抵触しないように注意を払う必要があるのですが、以下に順を追って説明します。
先ず、同一従業員のそれまで得ていた給与額を変えるには第三者もが納得し得る「正当なビジネス上の理由」が必要になります。例として、(1)職務内容変更に伴う昇給/減給、(2)リーダーに就任し同手当を貰っての増額あるいはリーダーを降ろされての減額、(3)就労地域の変更による増額/減額、他に、(4)企業の売り上げ減からの一時減給措置や、(5)政府による最低賃金額の上昇に沿った増額、また(6)FLSA(公正労働基準法)によるカテゴリーの変更による時間給制から月給制に変わる際や、(7)FLSA改定によるExempt従業員のサラリーレベルの最低額が引き上げられた場合等が挙げられます。
もちろん米国には給与の増減を規制する法律がない事から給与を上げる下げるは企業側の勝手なのですが、但し正当な理由のないアクションを行えば、差別や不公平・不平等が理由の訴えを起こされる可能性が生じます。そして上記の如し理由を根拠にすべきと理解されるなら前回触れたように、今より生活費の安い地域に移るに際し給与額を下げるなら高い地域に移る際には増額しなければ一貫性の欠けるところとなり、また、遠方に引っ越すことで遂行できない任務が生まれ、その職務内容の差を理由に減給するならば、会社近くに留まり会社でしか出来ない職務がある時のみ出社する従業員に対しては、それが理由の減給措置は賃金同一法に抵触する可能性が生じます。
(次回に続きます)
企業概況ニュース掲載 「人事・備忘録」 第五回 『ワクチン接種における強制・非強制の攻防』
今号では、新型コロナウイルスのワクチン接種に絡んで、昨年9月にバイデン大統領が打ち出した大統領命令およびその後を取り上げます。
昨年9月、バイデン大統領は、米国内の100名以上の企業に対してワクチン接種の原則義務化を求める声明を出しました。それに伴い、労働省傘下の労働衛生安全局(OSHA)が企業に向けて従業員就労時のコロナウイルス拡散予防措置としての非常時臨時基準であるETS(Emergency Temporary Standard)を10月18日の週中に発表する予定としたものの、実際にはかなり遅れて11月5日付となりました。
ETS発表当日から数えて60日後までにその大統領命令を遂行する必要から、60日後の本年1月4日の施行開始期限以降は、対象雇用主の違反に対して最大1万4,000ドルの罰金が科され、猶且つ、連邦政府と取引を行う業者であればたとえ100名以下の民間企業であってもワクチン接種を義務付ける必要条件が含まれるというものでした。
しかし同時期に、この大統領声明を受けてバイデン政権を提訴すると明言していた検事総長がいたことから、その大統領命令の実現が危ぶまれる中、ETS発表翌日の11月6日には早くもルイジアナ州連邦巡回裁判所が、その明言に倣い、企業向けのワクチン接種義務化措置を差し止める暫定命令を出しました。また、他に共和党優勢の州の間でも次々に同様の訴えが起こされました。訴えの理由は「民間企業へのワクチン接種強制措置は憲法上で重大な問題がある」というものです。
そしてそれに対する連邦政府からの反論や行く末は、年を跨いでからも注目されていましたが、結果は皆さんもご存知の通りで、1月14日、最高裁により差し止めの判断が下されました。「OSHAは職業上の危険な作業を監視・規制する立場にあってその権限を与えられているも、職場域を超えた公衆衛生に対する権限・承認は持ちえない」とし、要は「連邦政府機関としての権限を逸脱している」とするものでした。
この差し止めの判断が下ったことで困ったのが多くの一般の企業。何故なら、大統領命令従ってワクチン接種の義務化を実施することは、その是非はともかくとして、少なくともCovid-19に係る企業の人事管理を容易たらしめるしからです。それが差し止めという宙ぶらりんの状態となれば100名以上の従業員を抱える大手企業はおろか、その大手企業にワクチン接種方針の範を求めようとしていた小中規模の企業までもが右往左往せざるを得なくなったからです。事実、スターバックス社の如く従業員への接種義務化をすぐさま撤回する企業が現れたり、反対に、このままより強硬に進む企業があったりと、手本にしようとしていた企業が二極化した状態に進んでいます。
しかしながら、最高裁の差し止め判断はあくまでもOSHAの裁量範囲に疑義を唱えるものであり、民間企業をしてワクチン接種の義務化を止めるものではないことから、現在、州自体が同州内企業によるワクチン接種義務化方針自体を禁じている2州(1月中旬の時点でミネソタ州・テネシー州のみ)を除き、それ以外の地にある企業であれば、身体的な医療上の、もしくは宗教上の理由から接種できない事を認める免除条件を付した上で、従業員へのワクチン接種を義務付けることはできます。
管理の容易さからも従業員にワクチンを接種させたいとの想いがある企業側からすれば、公に不接種が認められる原因以外の理由から拒否する従業員たちは、企業側の要請を聞き入れない頑な姿勢に映るため、彼等に対して接種しない理由を質したい衝動に駆られる筈です。事実、弊社には全米中の企業から「接種しない従業員に対して理由を質して良いか?」との問い合わせが多く寄せられるのですが、この「なぜ接種しないのか?」との一見シンプルで誰もが答え易そうな質問自体が、実はかなりのリスクを生む事になりますので注意が必要です。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第8回 『生活費の安い遠方へ引っ越すなら減給実施も可能』
前回=11月27日号掲載=では末尾にて、遠方に引っ越す従業員には、通勤時代のポジションのままであっても給与の減額などの施策を講じるか否か? 更に、会社所在地よりも田舎に移り住む従業員の給与を減額するならば、逆に会社所在地よりも物価高の都市部へ移り住む従業員が現れた場合は如何なる対応をとるのか?など考えることは山ほどあると結びました。
ではその遠方に移る従業員について有名大手企業はどのような対策を講じたでしょうか。先ず彼らは「長い通勤よりもリモートワークを選択する従業員は代償を払う可能性がある」と一貫した姿勢で臨んでいます。誰もが知るGoogleは、在宅勤務を続ける従業員に対し、住む場所に応じて給与を最大で25%削減する方針を打ち出しました。従来の勤務地と同じ都市に住み自宅勤務する場合は給与変更はしないが、オフィスから離れた生活コストの低い場所に住むほど削減額を多くすることにしたのです。また、FacebookやTwitterなども同じように自宅勤務を続ける従業員に対し減給する方針を明らかにしており、VMWareも遠方へ引っ越す従業員の給与を最大18%削減すると発表しています。
対するインターネット向け決済サービス企業のStripeは、引っ越し費用支援のため従業員に2万ドルを提供するとしたものの、後に支払い額を10%削減すると発表。実効性が怪しくなってくるのと同時に会社宣伝の一環ではないかとの穿った見方もできます。
それはともかく、現時点で減額の方針を打ち出している企業に言えることは、大半がサンフランシスコ近郊という全米中で最も高い賃金水準の地に在ること。言うなれば、その地より物価の高い地域存在しないからこそ、このような大胆な方針を打ち出すことができるとも言えます。
勿論、この流れに抗うように減給しないと発表するソーシャルメディアサイトRedditのような会社も出て来てはいます。
もしも皆さんの会社が3大都市圏にあり、従業員の引っ越し先がそれより物価の低い地であることが凡そわかっているならば減給に動くことも可能でしょう。
但し、それと同時に最大限に気を付けるべきことは、雇用関連法の一つであるThe Equal Pay Act(賃金同一法)に抵触しない或いは見做されないようにすることなのですが、それについては次回に持ち越します。
企業概況ニュース掲載 「人事・備忘録」 第四回 『労使間の守秘義務契約にまつわる話 ②』
今号の「人事・備忘録」は、前号に続き、労使間における守秘義務契約を取り上げます。
前号では、たとえエンプロイーハンドブックなどの企業ポリシーの中で「情報守秘」を謳ったにせよ、それのみでは情報群の社外流出の防御策には足り得ない。理由は「一企業内の従業員が共有する社内の情報」=「周知された一般的情報」と受け取られる傾向の為です。然るに、機密扱いにする情報の種類や分野および守秘範囲をできるだけ絞り込み、職務ポジション毎に異なる守秘義務契約を交わすことで、その機密情報の特異性および機密の必然性を知らしめるべきであることをお伝えしました。但しそんな中、内容の異なる守秘義務契約を部門毎や職務ポジション毎に特化して交わすことで逆に別の問題を助長してしまうことにも触れました。
ところで皆さんはNLRA(法)と言う法律をご存知でしょうか。NLRAとはNational Labor Relations Actの略で一般の方や一般の企業には馴染みがないかもしれませんが、Labor Union即ち、従業員(労働者)達が労働組合を組織する権利ないしは労働運動を行う権利を保護する法律であり、「労働者は、自身の就労条件や待遇を改善させるべく、団結して労働運動を行う基本的権利を有する」というものです。
本題に戻りますと、冒頭で説いた、各々の職務ポジションに特化して例えば「あなたが、あなたの会社で立場上あるいは当該職務ポジションに就いていることで、知り得た情報や生じた情報の共有は関係者に限定され、たとえ社内の同僚であろうと、みだりに口外してはならない」との文言は、かつては米国中の大半の企業の守秘義務契約書内に記述してあった守秘条件なのですが、この「同僚であれども知るべき立場にある関係者以外への口外禁止」がNLRA(法)による「就労条件や待遇を改善させるべく従業員達による保障された団結権」を侵害する行為だと、NLRAを司る米国連邦政府独立機関であるNational Labor Relations Boardがみなしてしまったことから、近年、このような守秘義務契約の内容がNLRA違反の可能性を問われることになってしまったのです。
従って、もし皆さんの会社が未だにかなり古い守秘義務契約書を使っているようであれば、これを機会に、NLRA(法)に抵触しないように計らいつつ内容の見直しを行うことをお勧めする次第です。
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第7回 『遠方に引っ越す従業員が現れた場合に会社が考察すべきこと』
今回以降は、前回=10月23日号掲載=で予告しておりましたように、見出しを「ワークスタイルについて」に移し、遠方に引っ越す(引っ越したい)従業員たちに対し、会社は如何なる措置を執らねばならないか? または執るべきであるか?を取り上げます。
先ず、従業員が遠方で就労することを会社が許可する場合ですが、一部がまたは全体がこれまでとは違った勤務体系となっていく以上は解決しておかねばならない懸案事項がいくつも生じます。一例を挙げますと、四半期毎あるいは半年毎の定例会議や年末の慰労会など基本的には全従業員を参加させる本社での全社的ミーティングのような大きなイベントに、そのような遠隔地勤務の従業員を今後どのように参加させるか?です。爆発的なパンデミックが今後再発しないとの前提で考えれば2通りに大別できますが、今では広く普及したオンライン方式での参加を認めるのか或いは移動費がかかろうとも本社まで来させて参加させるか、です。全国にセールスレップやサービスエンジニアが散り、以前からその者達に自宅就労させている会社ではこれまでにも大きなミーティングがある度に呼び寄せるケースが大半だった筈ですが、その者達でさえ顧客先への訪問を控え顧客担当者とのオンラインミーティングを増やしていっている現在、本社での全体会議の方も極力抑えた上でオンラインミーティングが主流になっていくのは条理と言えますが、但し、たとえそのような事情があろうとも会社が膝突き合わせての全体会議に拘るのは、巷に幾つものニュースとして伝わっているように、「会社内で面と向かって話し合うコミュニケーション手段がなくなれば、創造性や活気が失われ、会社全体の熱量が失せてしまい、延いては売り上げ減から利益率自体も減っていく」と多くの大手企業が痛感し懸念するからです。
会社負担で呼び寄せるのか、または自己負担で本社まで来て貰うのか…。部分的な自己負担であろうとそれを強いれば辞めてしまう事から言わずもがな会社負担を想定しなければなりませんが、その移動費分を必要経費と割り切るか否か? それでは割り切るにしろ、既に措置を打ち出している大手企業などのように、遠方に引っ越す(引っ越した)従業員には、同じポジションであっても給与の減額などの措置を取るのか取らないのか? では田舎に移り住んだ場合とは逆に本社のある地域より物価の高い都市部へ移り住んだ場合はどうするのか?など考えることは山ほどありますが、次回以降でもそれらについて一つずつ取り上げていく予定です。
企業概況ニュース掲載 「人事・備忘録」 第三回 『労使間の守秘義務契約にまつわる話 ①』
今号の「人事・備忘録」は、労使間における守秘義務契約を取り上げます。
企業経営者の多くは、これまでに従業員と守秘義務契約書を交わした事がある、あるいは現在も継続して同契約を結んでいることでしょう。それは自由競争による商行為を行う企業が、社会的規範や倫理・マナーなどを遵守せざるを得ないこのコンプライアンス先導の時代において、自社(自己)責任の確立および自らの情報公開による率先した透明性が要求されるようになってきたと同時に、企業および株主達の利益を守るべく逆に企業が有する重要な情報群の社外流出による利益の損失を防ぐことも合わせて行う必要があるからです。
しかしながら、企業経営者が、商行為から生じる全ての情報を機密扱いにしたいと願っても、かなり難しいでしょう。これは言い方を変えるなら、企業経営者が全ての情報を機密扱いにしたところで、果たしてそれら全てが重要な機密情報として公に(あるいは裁判で)認められるか甚だ疑わしいからです。
近年は「一企業内の従業員全員が共有する社内情報」=「広く周知された一般的情報」と受け取られる傾向から、高度な機密情報とは認められ難いところがあり、従ってたとえエンプロイーハンドブックなどの企業ポリシーの中で「情報守秘」を謳っているにせよ、それだけでは厳しい情報管理ができているとは言えません。
それが為に企業は、それら情報の一つ一つが如何に機密扱いするべき類かをアピールするべく、それぞれの職務ポジションに特化して生まれる情報を中心に据えつつ機密認定することで、社内で周知された公的な一般情報とみなされることを避けてきたのですが、例を挙げるとするなら、経理部門に就く従業員には財務情報を、営業部門に就く従業員には顧客情報や価格設定およびキャンペーン情報を、エンジニアリング部門に就く従業員には成分や製品スペックなど、これらがそれぞれに特化し且つ外部漏洩を避けるべき情報と言えますし、機密扱いにする情報の種類や分野および守秘範囲の異な
る条件を設けて職務ポジション毎に制約や内容の異なる守秘義務契約を交わすことで、その機密情報の特異性を知らしめるべく努めてきたと言えます。
但しそんな中、守秘義務契約を部門毎や職務ポジション別などに特化して交わすことで企業側に別の問題が生じてしまいました。
皆さんはNLRA(法)と言う法律をご存知でしょうか。NLRAとはNational Labor Relations Actの略で、一般の方や一般の企業には馴染みがないかもしれませんが、Labor Union… 即ち、従業員(労働者)達をして労働組合を組織する権利・労働運動を行う権利を守る法律であり、「労働者は、自身の就労条件や待遇を改善させるべく、(団結して)労働運動を行う基本的権利を有する。」というものです。
本題に戻りますと、この各々の職務ポジションに特化して、例えば「あなたが、あなたの立場(職務ポジション)に就いていることで知り得た情報や生じた情報の共有は関係者に限定され、たとえ社内の同僚の者にであろうと、みだりに口外してはならない。」との文言は、どこの労使間の守秘義務契約書にも記述してあった契約条件なのですが、この「同僚であれど関係者以外への口外禁止」がNLRA(法)による「従業員達の就労条件や待遇を改善させるべく、保障された団結権」を侵害する行為だと米国連邦政府の独立機関であるNational Labor Relations Boardがみなしてしまったことが原因です。
(次号に続きます)
ニューヨーク Biz! 掲載「HR人事マネジメント Q&A」 第6回 『一時的措置だった自宅勤務がもたらした職住接近問題』
前回=9月25日号掲載=では、「従業員を安易にエグゼンプト扱いすると罰則と損害が生じる」と題し、未払い賃金あるいは未払い残業代が発生しているのではないかと懸念されるならば将来に亘り長く企業を苦しめることになるため、解決は早ければ早い方が良い。と半ば警告めいた内容となりました。
これまで、このエグゼンプション・ミスクラシフィケーション問題を敢えて数回に及んでまで連綿と扱ってきた理由は、当シリーズの初回「ワーク・スケジュールについて(1)」以来、必ず絡めてきた「自宅勤務」という昨春以来のキーワード、これはパンデミックを機に何処の企業もがそうせざるを得なかったとの致し方ない事実がありましたが、オフィス勤務あるいは出勤している時には現れなかったミスクラシフィケーション問題が、当にこの自宅勤務に切り替わったことによってより一層露呈してきたからに他ならないからです。では今後はどうか?
その前に現状をおさらいしますと、この凡そ1年半の間、コロナ禍中の自宅勤務という就労形態が人々に与えた衝撃は凄まじく、生活観を、否、人生観までをも変えられてしまったが故に、自宅勤務を経験してきた労働者はたとえワクチンを接種しようとも治療薬が開発されようとも、以前の「出勤」あるいは「出社」するとの当たり前だった体制に戻りたくない、いや既に戻れなくなった者も多く、これら従業員を失いたくない雇用主たちは、出社を強要すれば会社を辞められてしまうことから、ワクチン接種が広まった後でさえ週にせいぜい3日または2日の出勤を従業員にお願いするに留まるところが大半でした。
唯、週にたった2日の出勤要請であってさえ、「リモートワークで職務を遂行できることがわかったのに、なぜ以前のように出社せねばならないのか?」と一部の自宅勤務の労働者は詰問してくることでしょう。つまり、会社は一時的措置として自宅勤務を認めただけなのに、それが大勢によって既成化されてしまったと言っても言い過ぎではない新たな世になったと言えます。
この事から何が新たに生じたか?
それは、会社近くに居を構え、これまでは通勤していた彼等に自宅勤務することが認められ、職住接近が不要になったことから、それに乗じて遠方に引っ越しを考えるか、既に引っ越しをしてしまったことです。
一般的な商人だったパリ生まれのゴーギャンが、画家に転向し、晩年に至っては、西洋的慣習から脱却するべく南の島タヒチに移り住み絵を描き、生涯を閉じた…。そこまではいかずとも皆さんの身近にいる従業員までもが、これまでの商習慣に縛られた暮らしを変えたい思いに駆られています。
次回では、これら遠方に引っ越す(引っ越したい)従業員たちに対し、会社は如何なる措置をとらねばならないかを取り上げます。